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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)683号 判決

上告人(原告・被控訴人) 株式会社加州相互銀行

右訴訟代理人弁護士 坂上富男

被上告人(被告・被控訴人) 大川安太郎

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人坂上富男の上告理由一の(一)について。〈省略〉

同(二)について。〈省略〉

同(三)について。〈省略〉

同(四)について。

被上告人が訴外中村才一郎に対し所論印鑑証明書下付申請について依頼した事実があったとしても、また、仮りにそれが代理権を付与したものであったとしても、ただその事のみによっては上告人主張の表見代理の要件たる基本代理権が右訴外人にありとはいえないとした原審の判断は正当であって(最高裁判所昭和三七年(オ)第九一二号、同三九年四月二日第一小法廷判決、民集一八巻四号四九七頁参照)、これと異なる見解を述べる所論は採用できない。

その余の趣旨は、原審認定にそわない事実を掲げて原判決を非難するにすぎず、採用できない。〈以下省略〉

(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 五鬼上堅磐 裁判官 柏原語六 裁判官 田中二郎)

上告代理人坂上富男の上告理由

一、原判決は、法定の適用及び解釈の誤りと採証の原則に誤りを犯し、審理不尽及び釈明権不行使の違法があって、破棄さるべきである。

(一)〈省略〉

(二)〈省略〉

(三)〈省略〉

(四) 民法第一一〇条の表見代理の主張に対する審理不尽について

(イ) 甲第一号証手形取引約定書の五拾万円也の記載についても参拾万円を踰越して五拾万円也と書いたものであるとしても右は白紙の欄、中村才一郎、中村イトに記入する権限を与え、且つ右約定書を上告人に提出した。よって、手形取引約定を締結することの代理権を同人らの何れかに与えたものである。

そこで署名押印欄に被上告人の印鑑証明と同じ印影が押印されており同右印鑑証明と同時に手形約定書が上告人に提出せられ、よってもって、手形取引約定契約が締結されたもので正にその基本的代理権が右契約締結にあったものであり、右基本代理権を踰越して、五拾万円也に及ぶ契約が締結されたとしても、手形約定書に、印鑑証明と同じ印影が押されており且つ、右印影が、被上告人の連帯保証人の署名押印欄と元本極度額の上空欄に捺印がある以上、上告人が右契約の締結に当り、これが金五拾万円也の手形取引約定契約及びこれに伴う保証契約について、中村才一郎或いは中村イトについて代理権ありと信ずることに正当理由があり、且つ過失がないものであって、かかる点について原判決に漫然と「基本代理権は証拠がない」とか「仮りに才一郎らに右代理権が附与されたものであるとしても、ただその事のみによっては、被控訴人主張の表見代理の要件である基本代理権ありということは出来ない。」と判断していることは極めて審理不尽であり、釈明権不行使と言うべきである。

(ロ) 仮りに右表見代理がみとめられないとしても、印鑑証明下附申請方を中村才一郎に依頼したとしても代理権を附与したものであることは、認められないとしているが、被上告人居住の長岡市の同市印鑑条例第一五条第二項は「前項の規定により印鑑証明を受けようとする者が、病気その他止むを得ない理由により自から申請することが出来ない時は、その証明を受けようとする印鑑を押印した責任を証する書類を添えて代理人により申請することが出来る」とあって、同条例第十六条には、

「市長は次の各号の一に該当する場合には、印鑑証明をすることが出来ない。

一、印鑑が損傷ま滅の為、照合が困難と認められるとき。

二、印鑑の提示を求めた場合申請者又は代理人がこれに応じないとき。

三、証明の申請が本人の意思であることが疑わしいとき。

四、印鑑証明を受けようとする者が当該本人又は、代理人であることが疑わしいとき。

五、以下略」

とあって印鑑証明下附行為は本人以外の場合は、代理権の授与が必要であることは右条例によって明瞭であって明らかに印鑑証明下附申請方の依頼は明らかに代理権授与があったものである。

しかるに原判決はこの点に於いても、控訴人本人尋問の結果による供述によってもこれを認めることが出来ないとしていることは明らかに採証の原則の誤りの結果であって、右条例は昭和三七年九月一日から施行されているが本件当時に於ける条例も同一のものであって右は条例であって、証拠の必要のないものであって、かかる点を条例を適用せず単に証拠のみをもととして印鑑証明下附については、代理権授与なくとした原判決は正に法令適用乃至は、法令解釈の誤りも犯しているもので、基本代理権があり右の基本代理権の権限を踰越して甲第一号証を中村らが作成しもって本件手形取引契約をなしたものであって、中村によって提出された甲第一号証、甲第六号証により中村が提出した前記書類は真正に成立したものでありと信ずることに正当な事由がある以上、明らかに民法第一一〇条の適用を受けることは明瞭である。〈以下省略〉

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